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インターナショナル・ドラフトはメジャーリーグを面白くするのか

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現行のCBA(労使協定)は今年の12月1日で期限が切れる。次期CBAで話題に挙がっているのがインターナショナル・ドラフトの開催についてだ。

コミッショナーのロブ・マンフレッドは就任時からインターナショナル・ドラフトの実装を口にしている。しかし、実施に反発したベネズエラとドミニカ共和国のトレーナー達がショーケースをボイコットするなど交渉は上手くいっていない。そこで、本稿ではインターナショナル・ドラフトについて考えていきたいと思う。

  • インターナショナル・ドラフト構想が持ち上がった背景

まず、そもそもなぜインターナショナル・ドラフト構想が持ち上がったのかという背景に触れておきたい。この問題を考えるためのキーワードは「戦力均衡」と「コストカット」だ。

「戦力均衡」は近年のメジャーリーグの最大テーマである。MLBは一部の裕福な球団に戦力が偏らないように、ぜいたく税制度やドラフト完全ウェーバー制などを取り入れ、戦力差が出ないような工夫が取り入れている。実際、近年はカブスやロイヤルズのように長らく優勝から遠ざかっていた球団がワールドシリーズを制するなど確実に成果を出している。

また、MLBは2012年締結のCBAでドラフトとインターナショナルアマチュアFAにボーナスプール制度を採用することによって、高騰する契約金の「コストカット」を試みた。ドラフトの方ではコストカットに成功しているが、インターナショナルアマチュアFAでは上手く機能していない。2012年以降、18チームがボーナスプール額を超過した。それは、ドジャース、ヤンキース、レッドソックス、カブスのような裕福な球団からレイズ、パドレス、ロイヤルズ、アスレチックスといった貧乏球団まで幅広い。

インターナショナルアマチュアFAでボーナスプール額を超過する球団が後を絶たない背景には理由がある。現行の制度ではボーナスプール額を超過した際の罰則が、罰金及び2年間の契約金の制限となっており、罰則によって2年間の制限を受けたとしても3年に1度は大物選手たちを青田買いできてしまう。MLBの戦力均衡政策によって、ドラフトやFAで戦力を補強するのが難しくなっているため、レッドソックスがヨアン・モンカダの獲得に罰金含めて$63Mを支払うなど各球団が10代の原石達に大金を支払うことを惜しまなくなった。

また、ルシウス・フォックス(現TB)は元々アメリカの高校に通っていたが、ドラフト前にバハマに移住し、そこでインターナショナルアマチュアFAとして契約金$6Mでジャイアンツと契約した。これはこの年の国内ドラフト選手では全体1位指名のダンズビー・スワンソン(ATL)の$6.5Mに次ぐ額であり、こういった高額契約を狙った抜け道への対策も求められていた。

そこで「戦力均衡」と「コストカット」の2つを実現するための方策として、インターナショナル・ドラフト構想が持ち上がったというわけだ。

 

  • MLBが構想するインターナショナル・ドラフトとは

ESPNのバスター・オルニーの報じたところによると、MLBは2018年3月に10巡に及ぶインターナショナル・ドラフトの開催を強く求めているようだ。そして2021年までに、契約できる年齢を16歳から18歳に引き上げるつもりだ。

さらに、オルニーは次のように報じている。「MLBは野球の提案の一環として、ドミニカ共和国で施設を運営し、そこで若いアマチュア選手を招待して教育と野球指導を施そうとしている。これは、以前よりもMLBが中南米選手の育成に関わってくるということだ」。

つまりMLBは、インターナショナル・ドラフトを開催することに加えて、現地のトレーナーが担っている選手の育成まで自分たちで行い、アマチュア選手の契約を完全に支配下に置こうという狙いなのだ。

 

  • インターナショナル・ドラフトの弊害とは

しかし、インターナショナル・ドラフトにも弊害はある。これについて考える前に、中南米諸国の選手育成システムについて確認しておこう。

まず、MLBが直接選手を発掘・育成しているわけではない。選手を見つけて育成するのは地元のトレーナーだ。彼らは地元のリトルリーグの試合に足を運んだり、トライアウトを行ったりするなどして12~13歳の有望な選手を見つけ、自身の養成プログラムに招待し、MLB球団と契約するまでの面倒を見る。

ドミニカの高校はアメリカや日本のように野球チームを持っておらず、個人的に養成プログラムに入り、そこで腕を磨いてMLBアカデミー入りを目指すことになる。ドミニカには貧困に苦しむ選手も多く、養成プログラムでは、選手にただ野球を教えるだけでなく、野球道具や食事、遠征費、住居などを無償で提供している。今やスター選手であるミゲル・カブレラ(DET)やロビンソン・カノー(SEA)も中南米の養成プログラムから巣立ってMLB球団と契約したのである。(ベネズエラは治安の悪化によりMLBアカデミーの撤退が相次いでいる)

あらゆるサービスを無償で提供しているトレーナーだが、彼らの収入源はMLB球団との契約金である。通常、選手の契約金の20~30%を受け取ることになっている。つまり出世払いである。

しかし、インターナショナル・ドラフトによって選手の契約金が削減されると、当然それを収入源にしているトレーナーの収入も減ってしまう。例えば、ドミニカは人口約1000万人の小国だが、2015年には158人のドミニカ出身選手がメジャーリーガーとしてプレーした。ドミニカやベネズエラといった中南米諸国からこれだけ質の高い選手を輩出することができているのは、間違いなく地元のトレーナー達の力によるものが大きい。

もし、インターナショナル・ドラフトが実施されるとなれば、トレーナーの収入減に伴い、養成プログラムの規模が縮小されるなどして野球選手の質が低下するのではないかという懸念が生まれる。もちろん戦力均衡は重要だが、インターナショナル・ドラフトの導入によって果たしてメジャーリーグは面白くなるのか。再度考え直す必要があるのではないだろうか。

さらに、ドラフト制度自体にも問題はある。通常米国のドラフトでは指名された際に、高校生であれば大学進学を、大学3年生であれば再び大学に戻ることを球団に伝えて交渉材料にすることができる。しかし、養成プログラムで育てられ、再度評価を上げる場もないインターナショナルアマチュア選手はそうした交渉材料を持っておらず、また貧しい家庭に育ったものも多いため契約交渉の場で足元を見られてしまうだろう。(例えば現PHIのマーク・アッペルは12年ドラフトで全体8位指名を受けたが大学に戻り、翌年のドラフトで全体1位指名を受けた)

またテーマである「戦力均衡」の面から見ても、国内ドラフト、インターナショナル・ドラフトいずれもウェーバー制を取り入れると、下位球団が有利になりすぎてしまうのでは?という疑問もある。例えば2015年であれば最下位の球団はダンズビー・スワンソン(ATL)とヨアン・モンカダ(BOS)を両獲りできることになってしまう。

 

 

  • インターナショナル・ドラフトが抱える真の問題

インターナショナル・ドラフトについては賛否両論ある。しかし、重要なのはインターナショナル・ドラフトが良いか悪いかということではない。基本的にCBAというのはMLB機構と(40人枠に入っている)メジャーリーガーとの間の約束事だ。どうしてもアマチュア選手やトレーナーの意見というのは軽視されがちになる。MLBはコストカットのためにインターナショナル・ドラフトを開催したいし、選手会はアマチュア選手のことなんかよりも、スーパー2などの年俸調停制度やFA制度の方が大事に決まっている。

もちろん、インターナショナルアマチュア選手の契約制度は改革を必要としている。しかし、MLB、メジャーリーガー、球団、トレーナー、アマチュア選手といった様々な人々が協力してアイデアを出し合うのではなく、むしろMLBとトレーナーが敵対構造になってしまっていることに問題があるはずだ。

MLBとトレーナーではMLBの方が立場が強いのは明らかだ。しかし、これは公平な議論ではないし、先述したように野球レベルの低下を招く可能性をはらんでいる。よりよい制度を創り上げるために、メジャーリーグをより面白くするために。今の目先の利益を優先とした風潮に一石を投じることができるのは、私たち―野球ファン―ではないだろうか。

 

Text by Haruki Sakurai
写真: https://flic.kr/p/8L8sw8

 

 


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