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MLBの未来予測

今回がFar East Divisionでの最後の投稿となるので、今回は私が在籍した4年間におけるMLBに関して振り返りながらMLBの未来を考察したい。
4年間を通じて最も印象的だったのは、やはり2017年に広く知られるようになったフライボール革命だ。バレルゾーンを意識することで打席でのヒットやHRが出る確率を高くするという考え方で、これはMLBを席巻し2019年は史上最多のHRが飛び出した年となった。私もフライボール革命という言葉を毎回のように記事に含めていた事を覚えている。
フライボール革命から良い影響を受けた選手もいた一方で、その餌食になった選手もいた。例えばシンカーを主な球種にしていた投手やソフトコンタクトに秀でた打者がそれに該当するだろう。
しかし2020年はそのフライボール革命による”負け組”が盛り返したシーズンとなった。シンカーに関してはMLB全体での投球比率が2017年から19年は10%を大きく下回っていたが、昨年は一気に15%を超えた。
また昨年はコンタクト能力が抜群の選手がMLBデビューを果たした。ホワイトソックスのニック・マドリガル(2B)である。マドリガルは2018年のドラフト全体4位指名で入団した選手で、2019年はマイナー全体で120試合に出場して16しか三振しなかった。
三振を「フィールド上で最も恥ずかしい行為の一つ」とも語るマドリガルは、ここ数年の中でも最もコンタクト能力の高い選手だろう。彼の活躍は今後のコンタクト能力を売りにする選手の将来をも左右しかねない。その意味で彼は今最も重要な選手かもしれない。
新たな打撃法だけでなく、ドライブラインに代表されるような球団に所属していない指導者が多く台頭して知名度を高めたのもこの4年間であった。彼らの一部は現在MLB球団と契約して役職を得る者も出てきた。またD・ジョンソン(CIN)やC・フェッター(DET)といった大学野球で実績を積んだコーチがMLBでコーチになる例も相次いでいる。
※編集者注
Sportsnaviに2020年1月27日に掲載された下記の記事を紹介する。
NPBの投手が自費で訪れるドライブライン最初は倉庫を間借り、粗末な施設だった
当初は球団の指導方針と異なる場合もあるため敬遠されていた場面もあった。だが2020年にドライブラインの最も有名な顧客であるトレバー・バウアー(LAD)がサイ・ヤング賞を受賞するなど彼らの指導力の高さは誰の目にも明らかであり、MLB球団もそのノウハウを欲するまでになった。現在のドライブラインの顧客にはクレイトン・カーショウ(LAD)等の大物選手も複数おり、このオフには大谷翔平(LAA)も通っていたようである。
データ分析が進み指導方法やプレーに球団間の差がなくなりつつある時代だからこそ、他球団との差をつけるためにもこれらの新時代の指導者の存在感は今後ますます高まっていくと筆者は考えている。
だが、どれだけ最先端の指導法を持っていてもそれが選手に受け入れられなければ意味がない。ブライス・ハーパー(RF)を獲得して期待を集めた2018年のフィリーズ内部で、当時の投手コーチC・ヤング(現カブスブルペンコーチ)に対して複数の投手が反発したことからも分かるように、コミュニケーションは指導に際してとても重要である。
最終的に、プレーする選手は生身の人間でありロボットではない。だからこそコミュニケーションが必須となってくる。そしてこの指導者に求められるコミュケーション能力ひいては野球の魅力を分かりやすい形で伝える能力は、選手にも今後野球界では求められるのではないだろうか。日本でもアメリカでも野球人口の減少が叫ばれるようになって久しい。そして一旦減少に転じるとなかなかそれを再び増加させるのも難しいだろう。だからこそより野球の魅力を発信する力が求められるとも言える。
最近大型契約に合意したフェルナンド・タティスJr.(SD)やロナルド・アクーニャJr.(ATL)、フアン・ソト(WSH)らはプレー中も感情を露わにする事が多い。そのような振る舞いに関して苦言を呈する指導者やOBもいるが、ファンにも興奮が伝わる点で感情を表に出す事は決して悪い事ではない。むしろこれまで抑えられていた人間的な側面を出す事が今後はもっと求められるようになるのではないだろうか。マネーボール以降野球界で常に課題とされたプレーや選手育成の効率化の末に求められるものが選手の感情であるとすれば皮肉な感じもするが、それもまた新たな野球の進化と言えるだろう。
Photo link https://flic.kr/p/29YkoyM
Written by Yuichi Ando
トレバー・バウアーが絡んだ三角トレード

今年のMLBのトレードデッドラインはルールの変更か、それともプロスペクト重視のトレンドを受けてか例年に増して膠着していたが、期限まで24時間を切ったところで大型トレードが発表された。
CIN獲得
・トレバー・バウアー(CLEより加入)
CLE獲得
・ヤシエル・プイグ(CINより加入)
・スコット・モス(〃)
・フランミル・レイエス(SDより加入)
・ローガン・アレン(〃)
・ビクター・ノバ(〃)
SD獲得
・テイラー・トランメル(CINより加入)
CINはバウアー(RHP)1人の獲得となった。今シーズンのPS進出が難しいことには変わりないが、飛躍の1年といえるほど善戦したCINにとって、来年以降にPS争いをするビジョンはもうはっきりと見えているはずだ。そんな中、今年だけでなく本格的にPS進出を見据えた動きをするであろう来年も保有できるバウアーをローテーションに加えることができるのは大きい。また今シーズンは昨年ほどの出来でないバウアーを、球界屈指の投手陣を作り上げたCINコーチ陣がどう指導するのかも楽しみである。
懸念はバウアーが来年でFAとなってしまうことと、トッププロスペクトのトランメルを放出してしまったことだろうか。CINプロスペクトはグリーン(RHP)のTJ手術を筆頭に今季は伸び悩みの1年となっており、トランメルが抜けることでさらに層が薄くなることは否定できない。ただ、後のトレードで彼と同タイプのOFであるジェイムソン・ハナをOAKから獲得することに成功しており、ダメージを最小限に抑えている。
昨年のドラフト2巡目指名。選球眼もよくコンタクトに優れている。ラインドライブ性の打球を放ち、二塁打を量産するタイプ。最大のツールはスピード。
弱点はアームの弱さだが、それを補う打球判断の良さとスピードを持ち合わせているため、センターとしてプレーを続けられそうだ。身体能力に秀でた素材型。
Far East Division Prospect Handbook 2019より引用。(筆者が一部編集)
バウアーについては昨オフからトレードの噂が尽きなかったが、ついに放出が実現することとなった。
CLEにとっては年俸調停で高額になると見込まれ、ペイロールを圧迫するであろうバウアーを今の内に出来るだけ高く売っておきたいという算段だったと思われるが、レンタルながら後半戦好調のプイグ(OF)、今季不調ながら既にMLBデビュー済みでありトッププロスペクトでもあるアレン(LHP)、打低のペトコパークも何のそのといった強打者レイエス(OF)といったところにとどまらず、ワークホースタイプの投手であるモス(LHP)とR級ながら打棒が魅力のノバ(IF)といった有望株2人まで獲得することができた。レイエスとアレンは現在最低年俸な上、それぞれ2025年以降まで保有可能である。
年俸のかかるバウアーで安くコントロールできる戦力のレイエス、アレンを手に入れたことで負担を軽減し、なおかつ、長期的な戦力の底上げに成功したといえる。さらに傘下の補充まで同時に行えたのであるから、CLEとしてはしてやったりのトレードではないだろうか。
FED2019年注目選手。トレバー・バウアー,マット・シューメーカー,カン・ジョンホ

シーズン開幕から1週間を迎えたが、今回は今年のMLBで注目すべき選手を紹介する。といっても、3選手のみの紹介となっているが、私が特に注目、活躍を期待している選手をピックアップした。
① トレバー・バウアー(CLE)
Twitterで多方面に喧嘩を売りヘイトを集めている彼は、今では球界の「嫌われ者」の地位に。しかし本業の野球の方では近年実力をつけている。2017シーズンまでは防御率4点台と先発3~4番手レベルの投手であったが、昨シーズンは175.1回を投げ、221奪三振、防御率2.21とキャリアハイをマークした。特に奪三振率の高さは目を見張るものがある。昨シーズンオフ、自前のハイスピードカメラを使いスライダーを研究、改良を加えそれまでウィークポイントであったスライダーを最大の武器に変えた。そして今オフはチェンジアップの改良に取り組み、今シーズン初登板試合を7回1失点9奪三振と上々の滑り出しを見せた。今年は文句なしのサイヤング賞受賞も夢ではない。
https://www.mlb.com/news/trevor-bauer-brilliant-in-indians-win
② マット・シューメーカー(TOR)
2014年には16勝を挙げ日米野球にも来日した髭がトレードマークの右腕。以降は期待されたほどの成績は残せず、怪我にも悩まされ昨シーズンは右の腕の手術も経験した。しかし今年は健康な状態で開幕を迎え、ここまで2試合に先発し、14回無失点15奪三振とほぼ完璧な投球を披露している。速球は平均90マイルと威力に欠けるが、スプリット、スライダーを主体に丁寧にコーナーを突いていく投球スタイル。例年、BB/9は2点台後半とコントロールに優れており、ある程度の奪三振能力も備わっている。今シーズンはまだ2試合の登板ではあるが、シンカーの被打率が大幅に低下していて、それに伴いゴロ率も増加していることが好調の要因か。今年で33歳のベテラン投手の今後のピッチングに注目したい。
③ カン・ジョンホ(PIT)
2015年、ポスティングシステムを利用して韓国球界から移籍したカン・ジョンホはメジャー2年目にはアジア人内野手としては初の20本塁打を記録するなどの活躍をした。しかし2017年に飲酒運転で有罪判決を受け、就労ビザを失ったためシーズンを全休、2018年はなんとかビザを獲得したもののメジャーリーグでは3試合の出場に留まった。しかし今年のスプリングトレーニングでは16試合の出場で全体トップの7本塁打、長打率.773と持ち前の長打力を遺憾なく発揮し、ブランクを感じさせない記録を残した。もし怪我も無く問題を起こさずにシーズンを過ごせたら30本塁打以上は期待できるだろう。かつてアジア人最高の内野手とも称された名誉を挽回できるか。
Written by Kazuki Sugihara
Photo link https://flic.kr/p/WWk4d2
8月のトレード補強を振り返る

7月31日は、「トレードデッドライン」である。だが、MLBではウェイバーを通過する、もしくはクレームされることで8月31日までトレードを行うことが出来る。基本的に強豪チームが目当ての選手を獲得することは難しいが、シカゴ・カブスがダニエル・マーフィー(2B)を獲得したように、タイミングさえ良ければPO直前に大きな補強を行うことが出来る。さて、8月はメジャー全体で39件のトレードが行われた。そこでカブスのように、PO直前に補強に成功したチームを振り返りたい。
ニューヨーク・ヤンキース
7月、投手を重点的に補強していたヤンキースは、アデイニー・エチャバリア(SS)とアンドリュー・マッカッチェン(RF)を獲得。ディディ・グレゴリウス(SS)が復帰間近とは言えDL入りしており、SSの強化に成功した。また、エチャバリアは守備に定評があるため、グレゴリウス復帰後は控えとしてチームに貢献することが出来るだろう。外野手はアーロン・ジャッジ(RF)がDL入りしており、手薄となっていた。ジャッジ復帰後はアーロン・ヒックス(CF)やブレット・ガードナー(LF)と併用すると見られている。クリント・フレイジャー(LF)もリハビリ中であるため、第四の外野手をアップグレードすることが出来たのはPOでは大きな強みである。尚、マッカッチェンは2012年から始まった長期契約の最終年でありオフにFAとなる。おそらく来季はピンストライプではないユニフォームに袖を通していると思われるが、ヤンキースでの活躍に期待したい。
クリーブランド・インディアンス
ジョシュ・ドナルドソン(3B)を獲得。今季は故障によりシーズンの大半をDLで過ごしているものの、インディアンスの地区優勝は安泰であるため、急いで復帰する必要はなさそうだ。エースのトレバー・バウアー(RHP)等がDL入りしているものの、投手陣には手を付けなかった。7月はブラッド・ハンド(LHP)とアダム・シンバー(RHP)を獲得している。
オークランド・アスレチックス
ショーン・ケリー(RHP)やフェルナンド・ロドニー(RHP)、コーリー・ギアリン(RHP)、そしてマイク・ファイヤーズ(RHP)を獲得。1人1人はスター級ではないものの、確実にブルペンをアップグレードし、PO進出有力候補になることが出来た。
※アスレチックスのリリーバーの成績()内はAL内の順位
防御率3.29(3位)
勝利数35(2位)
投球回506.1(3位)
(9/2時点)
ブルペンはALトップクラスであり、今季のアスレチックスの好調を支える鍵と言えるだろう。ファイヤーズは移籍後もスターターとして起用されている。5先発し、27.2回3与四球30奪三振で3勝をマーク。ヒューストン・アストロズと地区優勝争いをしているチームに大きな貢献をしており、トレードは大成功と言えるだろう。尚、ファイヤーズは来季以降も保有することが出来る。地味な補強ながら後半戦も好調をキープしているアスレチックスから目が離せない。尚、、7月は僅か1度しかトレードを行なっておらず、そのトレードではジュウリス・ファミリア(RHP)を獲得している。
2017 ALDS Review:NYY vs CLE

ALDS:NYY 3-2 CLE
*Game部のリンクでゲームのRecapをチェック可。
Game1 NYY 0 @ CLE 4
勝:トレバー・バウアー (1-0) 負:ソニー・グレイ (0-1)
S:コーディ・アレン (1)
Game2 NYY 8 @ CLE 9 Final/13
勝:ジョシュ・トムリン (1-0) 負:デリン・ベタンセス (0-1)
Game3 CLE 0 @ NYY 1
勝:田中将大 (1-0) 負:アンドリュー・ミラー (0-1)
S:アロルディス・チャップマン (1)
Game4 CLE 3 @ NYY 7
勝:ルイス・セベリーノ (1-0) 負:トレバー・バウアー (1-1)
S:トミー・ケインリー (1)
Game5 NYY 5 @ CLE 2
勝:デービッド・ロバートソン (1-0) 負:コーリー・クルーバー (0-1)
S:アロルディス・チャップマン (2)
レギュラーシーズンでア・リーグトップの102勝をあげ、圧倒的な強さを見せつけて2年連続でア・リーグ中部地区を制覇したクリーブランド・インディアンズとアーロン・ジャッジ、ディディ・グレゴリウスら若い戦力が台頭し、ワイルドカードでALDSに進出してきたニューヨーク・ヤンキースとの対戦になった。鉄壁の投手陣、タレント豊富な打撃陣を擁し、シーズン中には22連勝を記録するなど歴史的なシーズンを送ったインディアンズが圧倒的に有利と見られていたが、ヤンキースが0勝2敗と王手をかけられた場面から怒涛の3連勝を見せ、ALCSに進出するという大波乱の展開となった。インディアンズにとっては、エースのクルーバーが2戦連続で打ち込まれたこと、ホセ・ラミレス、フランシスコ・リンドアらを中心に上位打線が全く機能しなかったことが大誤算だった。
このシリーズの注目点とシリーズで活躍した選手をピックアップしていく。
注目点1 ヤンキースの粘り強さ
第1戦はインディアンズ投手陣がヤンキース打線を完璧に封じ込め、第2戦はインディアンズが壮絶な逆転劇を演じ、勝利を収めた。流れは完全にインディアンズにあり、シリーズはほぼ決着したかに思われた。しかし、第3戦の田中、第4戦のセベリーノが素晴らしいピッチングを披露、第5戦にはクルーバーから2本のホームランを放ったグレゴリウス、ブレット・ガードナーの決死のタイムリーなど日替わりヒーロー達の活躍で歴史的なカムバックを果たした。ジャッジやゲイリー・サンチェスら主軸が完璧に抑えられていた中、ブルペン陣を筆頭に様々な選手が活躍できたのは非常に大きい。